『毎日がアニヴァーサリー』の続き?
“お出かけ”用に彼女が選んだ服装は、白いワンピースだった。
前開きで、フリルやレースはなし。いたってシンプルなデザイン。
素足には柔らかそうなサンダル。
こういう日のために買い求めていたのだそうだ。
「コンセプトは“避暑地のお嬢さん”なの」
「…………そうなんだ」
細い首と、むき出しの華奢な肩に目を奪われて、エイトの返事は二拍ほど遅れた。
そのせいなのか、ミーティアの口元から笑みが消え、
「――…おかしい?」
上目遣いで心細そうに訊ねてきた。
「よく似合ってるよ」
心底そう思っているから、脊髄反射的に答えられる。
「本当?」
「うん、すごく可愛い」
「ふふっ、よかったぁ」
嬉しそうに微笑んで、ミーティアはその場でくるりと回った。
丸く広がるスカート。
その裾からちらりと見えたふくらはぎの白さに、エイトは大いに動揺させられる。
「あ、あのさっ」
彼女の足下から微妙に視線をそらしつつ、
「帽子を被った方がいいんじゃないかな」
「嫌」
ばっさり斬られた。
「なんでだー」
つい恨みがましい口調になってしまう。
「髪にはリボンを結ぶんですもの」
鏡の前に立ち、ミーティアはにっこり笑った。手にはお気に入りのリボン。
「君、お忍びの意味分かってる?」
「分かってますよーだ」
むー、とむくれる彼女に、その顔は反則だとエイトは思う。可愛すぎて凶悪だ。
「帽子で顔を隠さなくても大丈夫よ。まさか王女が恋人と町中を歩いているなんて、
誰も思わないでしょう」
「そうかなぁ」
「きっと、そっくりさんだと思ってくれるわよ」
「楽観的すぎると思うけど」
「ねぇエイト、知ってる?」
「知ってる何も、まだ聞いてないよ」
じっとりと半眼で、エイト。
軽く無視して、ミーティアは右手の指を三本立てた。
「世界にはね、そっくりな人が三人存在するんですってよ」
「しないよ」
こんな可愛い生き物があと二人も存在してたまるか。
まったくありえない、とエイトは首を振る。
「何を言ってもダメですからねー」
歌うようにそう言って、ミーティアは鏡に向き直った。
手慣れた仕草で彼女が髪を整えるのを眺めながら、エイトはやれやれと肩をすくめた。
――姫君の仰せのままに。
もともと本気で意見するつもりなんてない。
いつだって、彼女には全面降伏。
エイトは自分が彼女に甘いことを、誰に言われずともよく分かっていた。
それに、何よりも――
可愛いは正義だ。
続きと言いつつ、時間を少し遡っていたりして。
うちの主人公君は姫にメロメロです。
彼女のこと以外は全て些末な問題らしいです。
「可愛いは正義」これは名言だ。