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PC内を整理していると、削除したと思っていた没ネタが出てきた。びっくりだ。

何の没ネタかと言うと、この夏に発行されたアンソロジーのもの。
最初はこの話、主人公視点で始めたけれど、つまんないからククール視点に切り替えたの
ですな。
それで面白くなったのかは……なったんじゃないかなー、うん。なってるよ、きっと。

というわけで、途中でぶつ切れていますが、公開しちゃえと。
えいっ。


+ + + + + + + + + +

『打ち明け話あるいは信頼のかたち』の主人公ver.という名の没ネタ


重いまぶたをゆっくり開け、かすむ視界に見慣れない天井を認めると、エイトは二度三度と
瞳をまたたかせた。
「うたた寝しちゃったのか……」
手の甲で両目を軽くこすりながら寝台に上半身を起こし、そのままの姿勢で両手を頭上に
伸ばした。
うたた寝によってぼんやりする頭と身体を適当にほぐし、落ち着いたところで、あれ、と
思う。

――なんで誰も居ないんだ?

階下の食堂で夕食を済ませ、全員で(隣に部屋を取っているゼシカも含めて)この部屋に
戻ってきたことは憶えている。
四人でしばらく雑談を繰り広げ、その中でククールが発したくだらないひと言がゼシカの
逆鱗に触れてしまい、最小威力のメラ(宿内のため加減したらしい)によって焦がされた
ことまでも憶えている。

――それからどうしたんだっけ。

まったく憶えていない。
ということは――そこで眠ってしまったのか。
自分が早々に雑談の輪から離脱したので、その場はお開き、あとの三人にしても、今は
それぞれ己の思うままに行動しているのだろう。
そう結論付けて、エイトは寝台から降りた。

窓辺に歩み寄る自分の足音が高く響く。
何となく振り返ると、三人部屋がやけに広く見えた。
窓はすべて閉まっているというのに、部屋全体がひんやりしている。
静かだ。
あの三人が居ないだけで、こんなにも。

――驚いたな…。

どうやら自分はこの状況を寂しく感じているらしい。
ちょっとした発見にエイトは目を見張った。

窮地を救って以来、「兄貴兄貴」と熱烈に慕ってくる年下の弟分。
思い込んだら一直線、常に前向きで行動的な領主家のご令嬢。
軽やかな物の見方をすることで、必死に繊細な内面を取り繕うとする不良騎士。

成り行きで集まった旅の仲間――。

いつでも、どこに居ても、何をしていても騒々しい連中。
時も場所もわきまえず、好き勝手に行動し、旅のまとめ役としては煩わしいことこの上ない
と思っていたのに。

彼らと一緒にいるのは――心地良い。

「驚いたなぁ」
己があの騒がしさを好ましく思っていたことに今更ながら気付かされ、苦笑がこぼれ出た。
それは独りになった今だからこそ、認められる事実だ。

――……独り?

首を巡らせて、椅子の背に引っかけた自分の上着を見やると同時に、そのポケットから顔を
覗かせたネズミが、小さくチュ、と鳴いた。

「そっか。お前が居るんだよな」
そうですよ、とでも言うようにトーポはヒゲを動かした。
「ごめん、ごめん。忘れていたわけじゃないんだけど」
お前とは一緒に居るのが当たり前だからさ。そう微笑んで、エイトはトーポをポケットから
すくい上げた。

ずっと傍にいてくれたこの小さなネズミ。剣を捧げた主君、それから――幼馴染みの姫君。
大切な存在はそれだけだったはずの自分が、実はかなり気に入っているなんて。

「あいつらには内緒だぞ」
目線を合わせて、そっと呟く。
「そんなこと知ったら、あいつら絶対、図に乗るからな」
トーポは丸い目をくるりと動かして、チチ、と同意した。
その様子に、よしよし、と指先で頭を撫でてやり、
「……なーんてね。ネズミ相手に何を語っているんだか」
自嘲気味に微笑んだ時、近付く足音を耳に捉えた。

――あの、やたらと自信たっぷりな足音は……。

エイトはトーポを乗せた両手を胸に引き付け、慎重にタイミングを計った。
ノックなしで扉が開いた瞬間、「うりゃっ」とトーポを放り投げる。
トーポの方も心得たもので、自ら勢いを付けて前方へ飛び跳ねた。
そして――。

ぺち

「…………」
顔をトーポに覆われたまま、ククールは後ろ手に扉を閉めた。
それから無言でトーポの背中をつまみ、引き剥がす。

エイトは大きな目をすがめ、
「何だその中途半端なリアクション。そこは機敏に避けるか、大げさに驚くところだろ。
つまんないなぁ」
「何がリアクションだっ」
口元を引きつらせ、ククールはトーポの首根っこを掴んで投げ返す。
「ガキみてえなことやってんじゃねーよ。ったく」
投げた手付きは乱暴だったが、トーポは柔らかくエイトの両手に収まった。


 はい、ここまで。
気の迷い、終了~。

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