というわけで、挫折しました。
もうずいぶん前から書くよ書きますよと宣言していた…と言ってもすでに忘れ去られている
でしょうが、例のシリアスでちょいとダークなお話『勇者の憂鬱』。
二ヶ月近くかかってますが、駄目ですこれ。書けません。
スランプがどうとか言うよりも、主人公がまったく!動いてくれないのです。
まあ彼はいつも私の言うことなんか聞いてくれず好き勝手に動きまわるのですが、今回に
限り、行動が逆。何故か動きやがりません。
私の脳内では普通に動いてはおりますが、それを文章化しようとすると駄目なのです。
…これって、説明しづらいですね。何分、私の頭の中で繰り広げられていることですし。
それを承知で言いますが、どうも彼はこの話を書いて欲しくはないようで…。
無理に書こうとすると、今度は私が駄目なのです。主役が動かないのにこっちで無理矢理
動かそうとすれば文章が思い浮かばない。思うように書けなくなるのですね。
つまり、こんな無理してまで書きたくないよ、と。
なので、楽しみにしていて下さった方(…居てはるのか?)には申し訳ないことですが、
このお話はお蔵入りにします。
次回作は…たぶん『風は未来へ』の間章か、主姫ほのぼの話『あなたのためにできること』
になるかと思います。って、こんなこと予告してええんやろうか…。
さて、本日も拍手ぱちぱちありがとうございました。
今月の更新も危ういですが、ぼちぼち頑張りますです。
…挫折はしましたが、『勇者の憂鬱』冒頭部分だけをちらりと載せてみたり。
頑張ってはいたのですよ、と言い訳のつもりで。
以下、気になる方だけ続きをどうぞ。
『勇者の憂鬱』
自分には“何か”が欠けている。
――そのことにはとうの昔に気付いていた。
さらに、“歪んでいる”と知ったのは――
旅を始めてからだ。
四人全員での買い出しは珍しい。
いつもなら一人か二人は馬車で待つ王族の護衛に留まるのだが、この日は当の王族が
「たまには全員でゆっくり羽を伸ばしてくるがよい」と言うものだから、四人共が町へ
繰り出し、各自で必要なものを買い揃えたのだった。
その、帰り道。
「ねえねえ」
後ろ手に買い物袋の取っ手をぶら下げて、男三人の前を弾むような足取りで歩いていた
ゼシカが、何を思いついたのか、急にくるりと振り向いた。
瞬間、すぐ後ろを歩いていたククールの胸にぽふっと顔を埋めてしまう。
「おいおいゼシカちゃん。この胸に飛び込んでくるのは人気のない場所でか、せめて夜に
してほしいもんだなぁ」
彼女の細い肩を丸く撫でながらククールはにやりと笑う。
「ま、オレはいつでも大歓迎だけどさ。モテない近衛兵と元山賊を羨ましがらせちゃ
可哀相だ――」
「バカじゃないのあんたっ!」
「うわ痛てっ!今、角が当たったぞ角っ!何が入ってんだその紙袋!」
「乙女のヒミツよ!でもって、あんたいっぺん死になさいっ!」
「…えっと」
通りの真ん中で顔を真っ赤にしたゼシカが凶器の紙袋をククールに容赦なくがんがん
振り下ろすのを、エイトとヤンガスは道の端で他人の振りをして眺めながら、
「どっちかって言えば、あれはゼシカの前方不注意だよね」
「でも兄貴。ククールの奴は後ろにいたんでげすから、後方不注意になるんじゃねえです
かい?」
「だって振り向いたところにククールがいたんだから、それはやっぱり前方になるんじゃ
ないの?」
「いやいや後ろのククールが――ああっ、アッシの米粒大の脳みそがこんがらがってきたで
がすよ!」
「えー、もう降参?たまには議論を戦わせようよ」
「おいこらそこの兄弟仁義っ!訳の分からん考察してないで早くオレを助けろ!」
やれやれ、とエイトは肩をすくめた。
頭を抱えて唸るヤンガスに食材の入った袋を押し付け、いかにもやる気なさそうな素振りで
ゼシカとククールの間にふらりと割り込む。
「はいはいはいゼシカさん。ストップ、ストップ」
なおも頭上に紙袋を掲げる彼女の両手をやんわりと掴み、
「…照れ隠しにしても、これはやりすぎだよ」
彼女だけに聞こえる小声でこそっと囁く。
「そっ、そんなんじゃ――」
「なら痴話喧嘩に見られたいわけ?そうじゃなかったら、もうやめるんだ」
ゼシカはきっと眉をつり上げたが、
「いいね?」
やんわりとした口調に断固とした意志を込めて念押しすると、
「…わかったわよ」
それ以上の抵抗を止めて肩の力を抜いた。不満げに口を尖らせて拗ねたように顔を伏せ
れば、二つに結わえた赤毛がふさりとその肩に垂れ下がる。
しおらしくなった彼女の様子に満足してエイトは両手を放した。
途端、振り下ろされる紙袋。
「あ」
と呟いた時には――とどめとばかりにククールがぶちのめされていた。
「生きてる?」
踏みつけられたカエルさながら地面にべったり伸びたククールの傍にしゃがむと、エイトは
彼の身体をつつきながらのんびり声をかけた。
「ああ…なんとかな」
弱々しく呟きながらククールはこちらへ顔だけを向けた。
「…なあ、エイト。ちょっとベホマ唱えて――」
「大丈夫みたいだね」
にこ、と笑って立ち上がるエイト。
「それじゃ行こうか」
「待て待て待てこらっ!」
うつぶせ状態から器用に跳ね起き、ククールはそのままの勢いでエイトに詰め寄った。
「お前、本気でオレのことなんてどーでもいいと思ってんだろ!」
「だって大丈夫だったじゃないか」
エイトは片手をひらひら振りながら面倒くさそうに、
「本当にまずい状態ならザオラルでもベホマでも何でも唱えてやるよ。そうやって自力で
立ち上がれるくせに甘えるんじゃありませんっての。そもそも自業自得だろ、さっきの場合」
あっさり切り替えされてククールは不機嫌そうに口をつぐんだ。けれどすぐに、
「…ゼシカのやつ最近ますます凶暴になってきたよなぁ。昨日なんか、いきなりメラゾーマ
ぶっ放してきやがった。ちょいと肩抱いただけだぜ」
「何を言ってるんだか。――嬉しいくせに」
「お前さ…」
ふと怪訝そうな表情を浮かべてククールはエイトの顔を覗き込んだ。
「何か、性格変わってきてねえか?」
「俺はずっとこうだよ」
ククールの視線から逃れるように足早に歩き出しながらエイトは唇だけで呟く。
――歪んでいるんだ。
ここからシリアス展開になるはず、だったのに…orz