今回、回答するのは主人公君です。
「いちゃいちゃバトン」
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「あ、そうだ。なあなあエイト、いいものやるよ」
「いらない」
「見もしないで断るなっつの」
「知ってるか? 赤い服を着た男から物をもらった人間は不幸になるという伝説を」
「それ今お前が作った伝説だろ」
「たった今、この瞬間から始まる伝説だ」
「……ホント、相変わらずだなあ。ま、いいや。置いていくから後で見ろよ」
「そう言われると、今見ておきたくなるんだよな」
「お前って奴は……。そんなことだと、そのうちお姫様にも愛想つかされるぞ」
「おかまいなく。俺達はそれなりにラブラブですよ」
「言ったな。なら、お前、絶対そのアンケートに回答しろよ」
「アンケート、ねえ……。って、何でお前がこんなの持ってるんだよ」
「ああ、トラペッタで渡されたのを忘れてた」
「で、俺にくれるわけ?」
「オレじゃ、こんなの回答しようがねーからなー」
「そろそろ特定の相手を作ろうとか、思ったりしないのか?」
「オレのことよりお前だろ。特定の相手がいるんだから、“ノーコメント”で通そうなんて
するんじゃねえぞ。きちんと回答しろよな」
「何で俺が」
「いいじゃねーの。暇つぶしにでもやってみろって」
「えー、何か、かっ飛んだ質問ばっかりじゃないか」
「ま、頑張りな。こっちの用紙に回答を書いて、指定の窓口へ送ればいいみたいだぜ」
「めんどくさいなあ」
「そう言うなって。余興余興。んじゃ、オレ行くわ」
「……結局、あいつ何しに来たんだっけ」
■デート中、街中では恋人とは、どういう密着の仕方をしますか?
「デートなんてしたことないんですけど」
そうなんだよなあ。
何度か二人きりで出かけようと試みたけど、何故だか至る所に陛下が現れるし、じーちゃん
もいつの間にかポケットに入ってるし……。まあ、じーちゃんはネズミ生活が長かったから
脊髄反射で入ってくるんだろうけどさ。陛下はもうちょっと俺を信用して下さってもいいん
じゃないかと思う。や、無理っぽいな。ああ見えて寂しがりなところもおありだから。
それにしても、今後、彼女と二人きりで出かけることなんてあり得るのか?
……っと、待てよ。
二人で街中へ出ることなんてないけど、城内限定で考えれば、結構一緒に過ごしてるぞ。
昨日だって、中庭を散歩した。
ああ、なんだ、だったら俺達、しょっちゅうデートしているんじゃないか。
中庭散歩をデート認定するとしたら。
回答は……“手を繋ぐ”だな。
そうしておかないと、彼女が腕に抱き付いてくる。あれは危険だ、うん。
彼女もいい加減、俺の腕に胸がしっかり当たるんだってこと、気付いてくれないかなあ。
とは言え、気付いてもらっても困る。なので、絶対教えない。
……ほんと、なんであんなに柔らかいんだろ――…いやいや、何考えてるんだ、俺。
次行こ、次。
■街中で昼間にキス出来ますか?
「出来るかっ!」
そんなことしたら、陛下に首を落とされる!
あー……サヴェッラでのアレはノーカンね。ノーカン。
むしろ公認でした。
■街中で夜間にキス出来ますか?
「だから出来ないって」
城内だったら出来るけど。
と言うか、いつもしてるし。
■あなたが異性を抱きしめてあげたくなる時はどういう時ですか?
「寂しそうにしている時」
公務で疲れても、何かあって落ち込んでも、彼女は自分で何とかする。
けど、一人でいるのは駄目なんだ。
彼女がしょんぼりしていたら、少しでも早く安心させてやらなきゃ。
それができるのは、俺だけだって、今は分かっているから……
……なんだけど。
今は、寂しくなると彼女の方から会いに来るからなぁ。
もちろん、それは大歓迎。甘えておねだりしてくる彼女の可愛さと言ったら!
もっともっとわがままになってくれればいいんだ。
■逆にあなたが異性に抱きしめてもらいたくなる時は?
「疲れたり、落ち込んだりした時」
黙って抱きしめてもらうだけで、何かも忘れられる。
でもって、“頑張ってね”なんて言われたら、たとえ竜神王にだって丸腰で挑めるさ。
……そりゃあ、好きな女の子にヘコんだ姿を見られたくはないけど。
たまにはね。いいかな、と思って。
俺が頼れば彼女は喜んでくれるから。
知らないんだろうなあ。
彼女が思っている以上に、俺が彼女を頼っているってこと。
■あなたが異性の頭を撫でてあげたくなる時は?
「そんなことより、抱きしめたい」
そっちの方が早いだろ。
小さい頃はよく頭を撫でてやったっけ。誉めてほしそうにしている時とか。
あの頃は、どっちかって言うと、妹みたいに思っていたんだよな。
今となっては……遠い記憶だ。
そう言えば。
自分じゃ気付かないけど、俺って彼女の髪をよく撫でているみたいなんだな。
どうも無意識にやっているみたいで。
やっぱりあれだな、旅している頃、しょっちゅうたてがみに触れていたから。知らない間に
癖になっちゃったんだ、きっと。
■逆にあなたが異性に頭を撫でてもらいたい時は?
「そんなことをしてもらいたいとは、一瞬たりとも思わない」
何でそんな子ども扱いされなきゃならないんだ!
あとは……そうだ。時々“可愛い”とか言われるのも!
違うだろ。その台詞は俺が彼女に言うべきものだろ。
どうしたら分かってもらえるかな。
やっぱり、いつか思い知らせてやらないと駄目なのか……。
■異性(恋人)と一緒に寝る時は、互いにどっち向きで寝ますか?
「向き合って寝る」
向き合う? 抱き合う? ええっと……まあ、そんな感じで。
彼女がそうしてほしがるから。
安心するんだって。
そう思ってもらえるなら、俺も嬉しいし。
……これは最近になって気付いたこと。
抱きしめられて眠るのって、結構、落ち着くものなんだな。
体温だとか、鼓動だとか、それから寝息も。間近で感じられると、何と言うか、すごく
安らげる。
彼女もずっとそう感じていてくれたのなら、それってとても幸せなことなんじゃないかと
思う。
ただ、問題なのは。
たまに首を絞められるってことだ。
たぶん、夢の中で抱き付いてくれているんだろうな。もう、思いっ切り絞めてくれるから。
あれは何とかしないと。
けど、すり寄ってくるものを振りほどくなんてできないぞ。
彼女のためなら死ねるさ。でも、彼女のせいで死ぬのは、さすがにどうかと思うわけで。
やっぱり、いつか思い知らせてやらないと駄目か……。
■腕枕は、されたいほうですか?
「とんでもない」
女の子に頼むか、腕枕?
どうせなら膝枕を希望したい。
ああでも“膝枕って何?”とか聞かれそう。
すぐに恋愛小説の影響受けるくせして、意外とポイントを知らないんだ、彼女。
……そうなったら、俺の方のダメージがでかい。何だよリスク高いぞ、膝枕。
■逆に腕枕を、してあげたいですか?
「もちろん」
あんな可愛い生き物を間近で見つめていられるなら、腕の一本下敷きにしたって構わない。
痺れなんか、キアリク一発で治っちゃうし。
ん……?
そう言えば、腕枕をおねだりされたことって、ないなあ。
■最後に、あなたにとって異性との最高のイチャつきかたは?
「イチャつきの定義が分かりません」
でも、あえて言うなら、そうだな……ただ、彼女が隣にいてくれるだけでいい。
目が合った瞬間、ふっと笑ってくれたり、俺の言ったことで喜んだりむくれたりする顔を
見ていられるだけで、幸せだなって思えるから――…
…………。
ああもう。
彼女が自分の“恋人”だって、いつになったら慣れるんだ、俺。
■バトンを渡す人
誰かに渡せって?
うーん……。うちのアホ副官にでも渡すか。
あ。まずい。そんなことしてみろ。今週中にも、うちの隊でこのアンケートが大流行して
しまう。ノリがいい、というか、あいつら揃ってアホだからな。
よし、ここは思い切って彼女に渡してみよう。
きっと、張り切っちゃって全力で回答するんだろうなあ。可愛いなあ。